呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 それは、オスワルト王宮に激震が走る事件だった。国民にとっては、シーレン地方の反乱以上に厄介な問題かもしれない。

「グレイブ山の魔獣たちが街におりてきている?」

 エリオットと一緒に話を聞いたハンナも目を丸くする。

 魔力を持つ人間と同様に、この世界には強い魔力をまとった動物が存在する。彼らは魔獣と呼ばれ、人間を襲う恐ろしい存在として畏怖されていた。

 だが、知能の高い彼らは、人間と争えば自分たちの身も危険になることを理解しているのだろう。普段は森の奥深くや山頂付近などに生息し、人間の居住エリアに無遠慮に踏み入ってくることはまずなかった。彼らから受ける被害の多くは、人間側が魔獣の領域を侵したときに発生している。

「街に出てきたって、いったいどうして?」
「原因はまだ究明中です」

 報告をしてくれた近衛軍の指揮官アレクスも、困惑した顔で額に汗をかいている。

 オロオロする彼とハンナとは対照的に、エリオットはすぐに平静さを取り戻した。

「それで、被害の状況は?」
「グレイブ山のふもとにある、ヤカックの街では死傷者が出ています」

 グレイブ山、カヤックの街は王国の南に位置している。

 オスワルト最大の穀倉地帯であり、民の数も多い。あの辺りへの被害は食糧難という形で、王国全土に影響を及ぼすだろう。
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