呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
「毎日、山積みの政務をこなしていらっしゃるんですもの。お疲れでしょう」
「平気よ。私は陛下の代理を務めているだけだもの」

 エリオットが時間をかけて育てた廷臣たちはとても優秀で、国王不在の緊急時でも政務は問題なく回っている。

 ナーヤが心配そうに眉尻をさげて、言う。

「カヤックの街の魔獣対策、予想より時間がかかっているそうですね。いつか王都の中心部にもやってくるんじゃないかと、民たちの間にも不安が広がっているようです」

 シーレン地方の反乱の件は王宮内でも、エリオットが信頼する一部の人間にしか明かしていない。

 ナーヤや王都の民の関心は魔獣にのみ、向いている。

「そうなのよ。王都から逃げようと考えている者もいるようで、このままでは民たちがパニックを起こす可能性があるわ」

 ハンナにとって、今一番の悩みの種だ。

 悪い話ほど尾ひれがつくもので、『王都はそう遠くないうちに魔獣たちに蹂躙される』などという噂が広まっているようだった。

 魔獣が現れたカヤックの街と王都エルガは距離も離れているし、そう現実的な話ではない。だが、民が不安になる気持ちも理解できる。

 明るいヘーゼル色をしたナーヤの瞳が陰る。

「でも実際問題、陛下をはじめ優秀な魔法使いがこれだけ駆り出されているのにまだ解決しないなんて……」
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