呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
いつもポジティブな彼女も、さすがに今回ばかりは楽観視はできないと考えているのだろう。

 白状すれば、ハンナもまったく同じ気持ちだ。エリオットの能力なら、きっとすぐに帰ってくる。

 そう確信していたぶんだけ、動揺も大きい。

 帰りの遅い彼が心配でたまらなかった。

(山の主である魔獣たちを侮りすぎていたのかも……)

 エリオットの魔法だって万能なわけではない。

 だが、仮にも王妃である自分が悲観的な顔を見せてはいけない。感情的になるなと、自分に言い聞かせてハンナは口を開く。

「魔獣が街におりてくる事象は過去にも何度か起きていて、完全鎮圧にはひと月以上かかっているわ。だから今回だけ手を焼いているわけじゃない。王都が蹂躙されるなんて事態には、ならないはずよ」
「そうですよね。なんといっても、現陛下は六大精霊使いですもの。魔獣ごときに負けるはずはありません!」
「えぇ、そのとおりよ」

 ナーヤが彼女らしい明るさを取り戻してくれてホッとする。

「それじゃ、おやすみなさい」

 侍女の制服、焦げ茶色のロングスカートをひるがえして彼女が部屋を出ていく。ハンナはカップの底にわずかに残っていたお茶を飲み干し、ベッドに潜り込んだ。

 ふかふかの布団にくるまれると、自分の身体がひどく疲れていることを実感する。けれど、頭は冴えてしまっていて睡魔は訪れてくれそうにない。
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