呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 エリオットはどんな顔をするだろう?
 
 きっとサファイアの瞳をキラキラと輝かせて、昔と変わらない無邪気な笑顔を見せてくれるはず。

(彼はきっと大丈夫。信じて、帰りを待とう)

 エリオットの笑顔を思い浮かべたら、不安も薄れ、ハンナは自然と夢の世界に堕ちていった。
  
 翌朝。

 いつもより一時間ほど早く、ハンナは目を覚ました。外がなにやら騒がしかったからだ。

 素早くベッドを抜け出すと、深緑色のガウンだけを羽織って部屋の扉を開ける。

 王宮の朝はいつも慌ただしいものだが、今日はやけに顕著だ。早足で行き交う人々のなかにナーヤを見つけてハンナは声をあげる。

「ナーヤ! なにか、あったの?」

 パッと顔を輝かせて、彼女が答える。

「あぁ、王妃さま。陛下が、カヤックの街に行っていた魔法使いたちが、無事に帰還しましたよ!」
「本当?」

 ガウン姿で廷臣たちの前に出るのはみっともないことと理解はしているけれど、着替える手間すら惜しく感じてハンナはそのまま走り出した。

(エリオットさまが帰ってきた!)

 やっと会える。まるで幼子のように、ハンナは心を弾ませた。

 気がせいて、もつれそうになる足をどうにか動かす。

 王宮を出て、中庭を抜ける。正門の前辺りに軍馬の群れが見えた。

「おぉ、陛下もあちらに!」

 誰かの、そんな声が聞こえる。どうやら、エリオットも魔法を使わずに騎馬で帰ってきたようだ。
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