呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
(魔力を使いすぎてしまったのかしら?)

 魔力は体力と同じで、消耗する。短時間に使いすぎると身体は大きなダメージを負うのだ。

 浮かれていた気持ちが一転して、心配に変わる。ハンナは必死に彼の姿を捜した。

(どうか、元気なお顔を……)

 人だかりの中央にすっかり見慣れた銀髪の頭を見つけて、ハンナは駆け出す。

「陛下っ!」

 彼はすぐに気がついて、こちらに視線を向ける。

「あぁ、ハンナ。ただいま」

 変わらぬ笑顔。けれど、かなり疲弊していることは見て取れた。

 髪は乱れているし、衣服はあちこち破けている。顔色も悪く、心なしか頬もこけている気がする。

「だ、大丈夫ですか?」
「……そんな顔しないで、ハンナ。私は平気だから」

 彼はハンナの髪を撫で、ふふっと口元を緩めた。

「珍しいドレスを着ているね。上品な深緑色は君によく似合うな」

 夜着に深緑色のガウンを羽織っただけの姿が、きちんとしたドレスに見えているのであれば大変だ。

 意識が朦朧としているのかもしれない。

「私の服装など、どうでもいいですから。さぁ早くお部屋で……」

 休んでほしいという懇願を聞くより前に、エリオットの身体はぐらりと傾き、ハンナの胸に倒れ込んだ。

「――エリオットさま!」

 彼の名を呼ぶハンナの声は悲鳴に近い。胸に抱き止めたその身体は燃えるように熱かった。
 
 
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