呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 それから丸三日。

 高熱でうなされるエリオットの看病をハンナは寝ずに続けていた。

 公務ができる状態ではない彼に代わり、王宮内のあれこれも決裁せねばならないし……自身の身体にも疲労は澱のように蓄積している。

 目のかすみも気になって、ハンナは目頭を指先でつまむ。

「少し休まれては? このままでは、陛下だけでなく王妃さままで倒れてしまいます」

 案外と主人に過保護なナーヤにそう忠告されたけれど、ハンナは首を横に振った。

「私が……そばにいたいのよ。ナーヤはもう自分の部屋に戻って」

 彼女はもうひと言、なにか言いたそうな顔をしたけれどグッと言葉をのんだようだ。

 ハンナが実は頑固であることをよくわかっているのだろう。諦めたように小さくため息をつく。

「かしこまりました。でも、くれぐれも無理はしないでくださいね」
「えぇ、ありがとう」

 ハンナはエリオットの眠るベッド脇に置いた椅子に腰かけ、また彼の寝顔を見つめた。

 熱が高いせいか、頬が紅潮している。薄く開いた唇から浅く、苦しそうな呼吸音が聞こえた。

「……ナ、ハンナ」

 エリオットの手はハンナを捜すように宙をさまよう。その手があまりにも白く、ハンナの心臓をドキリとさせた。

「私はここに。ずっとおそばにいますよ、エリオットさま」

 彼の手をそっと握り、優しい声音で伝える。

 安心してくれたのだろうか。エリオットの眉間のシワが少し薄れ、乾いた唇が緩やかな弧を描く。
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