呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
「しかし……近衛軍が王宮を離れるのは危険ですが、すぐに魔獣と戦うことのできる魔法使いはもうほとんど残っておりません」

 エリオットは眉根を寄せて考え込む。

「反乱軍がすぐにシーレンを発ったとしても、ここに到着するまでには二日はかかるよな」

 エリオットの使う空間移動魔法は高度なもので、使える人間はあまりいない。いたとしても、一緒に運べる人間はせいぜい十名ほど。彼の言うように、本格的な戦闘開始は早くても二日後だ。

 エリオットは淡々と続ける。

「二日でリベットの森の魔獣を片づける。そして、王都の守備を固めて反乱軍を迎え撃とう」
「で、ですから、そのための戦力が……」

 アレクスはすっかり弱りきっている。そんな彼にエリオットは笑む。

「心配ない。魔獣のほうは、私がなんとかする。その代わり、お前たち近衛軍は私の指揮なしでもこの王宮を守るんだ。いいな」
「――む、無茶です。それでは、陛下のお身体が……」

「無茶でもなんでもやるしかない。これは王命、反論は聞かぬぞ」
「かしこまりました」

 エリオットに言いくるめられて、アレクスは渋々ながらにうなずいた。

「では、私はリベットの森に向かう準備をする」

 エリオットはそう結論づけて、対策会議を散会させてしまった。

 けれど、ハンナはその場に固まったまま動けなかった。

(まだ高熱があるのよ? 魔力だってきっと回復しきっていない。そんな状態で、少数の兵だけで魔獣と戦うだなんて……)

 六大精霊使いは偉大な存在だが、全知全能の神ではない。

 いくらエリオットでも無茶が過ぎる。唇を真一文字に結んでいるハンナを見て、彼はクスリとする。
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