呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
「そんな顔をしないで、ハンナ」
「私は……この作戦には賛成いたしかねます。エリオットさまのお身体がっ」
「大丈夫。君を守るためなら、私はなんだってできるんだ」

 おどけたように言いながらも、彼はコホコホと乾いた咳をしている。

 肌だって青白いし。目元は落ちくぼみ、生気が薄れていた。それなのに、サファイアの瞳だけは妙に強い決意を秘めているようで……嫌な胸騒ぎがしてならないのだ。

 ハンナはくるりと、彼に背をむけた。

「ほんの少しだけ。私にも考える時間をください。リベットの森に向かわれるのは、どうかそのあとで……」
「ハンナは頑固だなぁ。まぁ、そういうところも大好きだけどね」

 見なくても、彼がどんな顔をしているかわかる。きっっと心の底から幸せそうに笑っているのだろう。

 執務室を出たハンナはひとり、廊下を歩きながら考えていた。

 本当に彼をリベットの森に行かせていいのだろうか?

(あの咳……エリオットさまの体調不良は本当に魔力の使い過ぎだけなのかしら。なにか、もっと別の要因があるような気がして……)

 魔力の使い過ぎだけの症状には思えない。それが気がかりなのだ。

 そもそも、喉が弱いというエリオットの持病はどれほどの深刻度なのだろう。彼の侍医にきちんと話を聞いてみようと、ハンナはそちらに足を向けた。
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