呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
「えぇ、なんとも奇妙な病なのです。心臓だけが急激に老化してしまったとでも言いますか……」

 まだ三十二歳にもかかわらず、エリオットの心臓は寿命を迎える老人のようになっていると、彼は説明した。

「病気ならば治療の手立てもありますが、老人の死を食い止めることはできないように、陛下のお身体に私がほどこせることはなにもないのですよ」

 彼は無念そうに唇を噛んだ。

「このことを、コッポラ先生以外に知る者は?」
「おりません。陛下は『あとのことは全部、自分で準備を済ませるから心配ない』とおっしゃっておりまして」

(あと……自分の亡くなったあと、という意味?)

 どうしようもない悲しさと、秘密にされていた悔しさと、ずっと気がつきもせず能天気に笑っていた自分の不甲斐なさと……あらゆる感情が押し寄せて、渦巻いて……ハンナの胸のうちはもうグチャグチャだった。

 エリオットに聞きたいこと、言いたいことは山ほどある。でも、まずは彼にこれ以上の無理をさせてはいけない。

 ハンナは覚悟を決めて、前を向く。

「コッポラ先生。私はしばらく不在にします。その間、どうか陛下のことをよろしくお願いいたします。決して、無茶をさせないでくださいね」

 それから、ハンナは急ぎ、エリオットのもとに戻る。

(今のエリオットさまを魔獣討伐に向かわせるわけにはいかない!)
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