呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
「エリオットさまっ」

 ハンナが勢いよく執務室の扉を開くと、窓辺に立っていたエリオットがゆっくりと振り返った。

「私はそろそろリベットの森に行かなくては……王妃さまのお許しは、いただけるかな?」

 冗談めかしてそんなふうに言った直後、エリオットは激しく咳込み出し、執務机に片手をついた。

 もう、立っているのも限界なのだろう。

「エリオットさま。どうかベッドへ。今はなにも考えず、お休みくださいませ」

 目を丸くする彼に、ハンナはきっぱりと告げる。

「リベットの森には私が向かいます。無策ではありません。必ず魔獣を討伐してまいります」
「な、なにを? そんなことは認めない。絶対に認められないぞ」

 滑稽なほど慌てるエリオットを見て、自分がどれだけ彼に大切に思われているのかを、あらためて実感する。

 それだけで力がみなぎり、魔獣なんか怖くないと思えた。

「無礼を承知で申しあげますが、今のエリオットさまよりは私のほうがきっと戦力になるはずです」
「ぐっ……しかし、最愛の君を危険な場所に送り込むなんてことは――」

 ハンナはエリオットの肩をグッとつかみ、毅然と告げる。

「たしかに私は、あなたの最愛の妻ですね。ですが、その前に……このオスワルト王国の王妃なのです。民と土地を守る責務がありますわ」

 ハンナは艶然とほほ笑んだ。

「私をこの国の王妃にしたのはエリオットさまですよね? どうか、王妃の務めを果たさせてくださいませ」
< 154 / 187 >

この作品をシェア

pagetop