呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 ハンナが連れて行くのは、先の討伐でダメージを受けた攻撃魔法を使う者ではなく植物魔法が使える人間。そして、彼らが魔法を使う間に魔獣を退けてくれる兵士たち。

「ほ、本当に私なんかがお役に立てるのですか?」
「えぇ、ものすごく大切な戦力よ!」

 困惑しきりのナーヤに、ハンナは自信たっぷりにほほ笑んでみせた。

 リベットの森に向かう準備をすべて終えたハンナは、誰もいない廊下で足を止める。

 外はすっかり暗くなり、闇色の空が広がっていた。

 ハンナは出窓を開き、夜の風を迎え入れる。ひやりと冷たく、厳かで、そこに彼がいるような気がした。

「いらっしゃいませんか? ハーディーラさま。どうか姿を現してくださいませ」

 闇はなにも答えない。だが、ハンナはなおも続けた。

「あなたがエリオットさまの命しか聞かないことはわかっています。でも、彼に関わることなのでどうか……」

 強い風が吹き、木々がザザーと揺らめいた。まるで彼に道を譲るように。

 闇と同化していた一匹のコウモリの輪郭がだんだんとはっきりしていく。ハンナの前まで来て、彼はしゅるりと人間の姿になる。

「呼んだか?」

 金に輝く不敵な瞳。出窓に片膝を立てて座るのは、闇の精霊ハーディーラだ。

「呼びました。でも、来てくれるとは思っていませんでした」
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