呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 エリオットの教育係を引き受けたのも、深く考えずに与えられたものを受け入れただけ。

 ナパエイラに嫁ぐ話も本当は嫌だったけれど、自分にはそんな主張をする権利はないと思っていた。

 愛人ばかりを大事にして、自分をないがしろにする夫。誰がどう見ても不幸な結婚だったのに、夫婦なんてこんなものだと自分の心に蓋をし続けた。

「十五歳のエリオット殿下は、私をたくさん褒めてくださいましたね。この髪も瞳も、料理の腕も……すごくすごく嬉しかった。生まれて初めて、少し自惚れることができました」

 自分もそう捨てたものではないのかもしれない。そんなふうに思えた。

「そして、取るに足りない私に自信をくれたあなたに、恋をしました」

 エリオットはハンナの初恋だった。

『約束して、ハンナ。それでもなお、俺が君を愛していたら……そのときは俺のキスを受け入れてほしい』

 彼のくれたあの美しい約束がどれだけ嬉しかったか、きっとエリオットは知らないだろう。だけど――。

「私の両親は優しい人です。平凡な娘を愛し、慈しんでくれました。私がどうしてもナパエイラには行きたくない、エリオット殿下のそばにいたいと泣いて訴えれば……もしかしたら、結婚を取りやめてくれたかもしれません」

 エリオットは黙って、真摯な瞳をこちらに向けるだけだ。

 「なぜ、そうしなかった?」と聞かないのは、おそらく彼も理由をわかっているからだろう。
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