呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 ほんのひととき教育係を務めただけの、異国に嫁いだ自分など、もう必要ないだろうに。

「ほら、ハンナ。君が好きだった赤豆のスープだ」

 エリオットは幸福に満ち足りた笑みを浮かべて、ハンナの口元にスプーンを運ぶ。

「身体はどこも問題ございませんので。自分で食べられます。国王ともあろうお方が侍女のマネごとなどしてはいけませんよ」

 かつての彼はハンナの小言を素直に聞き入れてくれたものだったが、今の彼はよくも悪くも逞しくなったようだ。

「ダメ、ダメ、無理は禁物だよ」

 そう言われても、国王に「あ~ん」をしてもらう度胸はハンナにはない。たじろぐハンナに彼はクスクスと笑う。

「あぁ、口移しで食べさせてほしいという意味か。朝から積極的だね、ハンナは」

 彼の言葉に、ハンナの頬は一瞬でボッと燃えるように赤くなる。

「そ、そんな意味ではありません。スプーンで、スプーンでお願いします」

 エリオットはにっこりと笑って「じゃ、あ~ん」とスプーンを押しつけてくる。

(うぅ、浅い手口にのせられてしまった)

 ハンナは諦め、渋々口を開く。

 好物だった故国のスープ、記憶よりなんだか甘く感じた。

「おいしいか?」
「……はい、とても」

 それを聞いたエリオットが全身全霊で幸せそうに笑む。

 その様子にハンナは心を打たれてしまった。彼に仕えていた頃の気持ちが蘇ってくる。
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