呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
「けれど私は……あなたを信じきることができなかった」

 怖かったのだ。エリオットは成長し、いつかあの古びた離宮を出ていく。

 原石である彼は必ず花開くときを迎える。玉座に座る可能性すらある。

 彼がそれでもなお、自分を愛し続けてくれるなんて夢を見るのは……恐ろしくてたまらなかった。だから逃げたのだ。

「弱い私は、自分を守るためだけにまだ若いあなたを傷つけた。エリオットさまのくれたまっすぐな愛を最悪な形で裏切ったのです。それなのに……」

 ふいに込みあげてくるものがあり、ハンナは喉を詰まらせた。ハラハラと、温かな滴がこぼれ落ちる。

(伝えなくてはいけない。私の気持ちをすべて、エリオットさまに)

 涙声で、それでもハンナは言葉を続けた。

「そんな私を、エリオットさまは言葉どおり愛し続けてくれました。私が目覚めるまで、十五年も待っていてくださったのです」

 ハンナ以上の女性など、百も千も出会っただろうに。それでも一途にハンナだけに愛を注いでくれた。

 エリオットは「ははっ」と無邪気に笑う。十五歳の頃のような笑顔で。

「ハンナ。君は勘違いをしている。私は、君が愛してくれるから君を愛するわけじゃない。君が俺のことなど大嫌いでも、いや、たとえその手で殺そうとしても……私はハンナを愛するよ。理屈じゃないからね。愛さずにはいられないんだ」

 ハンナは泣き笑いみたいな顔になって、答える。
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