呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 互いに譲らず、しばし言い合いを続けて、それからふたり同時にぷっと噴き出した。

 笑い声がやみ、すごく近いところで視線がぶつかる。

 ふたりの間を流れる空気がとろりと蜜のように溶けて、ゆっくりと唇が近づいた。

 優しく触れるぬくもりは、なによりも甘美で……離してしまうのはあまりにも惜しかった。

 永遠を形にしたら、きっとこんなキスになるだろう。

 エリオットがハンナの耳をくすぐる声でささやく。

「ハンナ。今、ものすごく……君を抱きたい」
「それは……エリオットさまがきちんと元気になってからです」

 真実のキスですべてが解決してハッピーエンド。正直、そんなお伽話を少し期待していたけれど、現実はそう甘くない。

 今も、エリオットの顔色は青白く、彼の身体に巣食う悪魔は消えていないことがわかる。

「死んでもいいな。それでもいいから君を愛したい。ダメ?」

 上目遣いで甘える表情は昔の彼を思い出させる。ハンナはこの顔にとても弱いのだけれど、心を鬼にして断固拒否を貫いた。

「つれないな、ハンナは」

 それから、彼はふと真面目な顔になった。

「でもね、本当なんだ。もしも、明日急に死んでしまっても私は後悔しない。全力で君を愛したからね。エリオット・カーミレスは世界一幸せな男だった。それを覚えておいて」

 明日急に死んでしまっても――。

 その言葉は想像以上の鋭さでハンナの胸をえぐった。
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