呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
九 世界で一番幸福な夫婦
九 世界で一番幸福な夫婦

 真夜中。

 無事に鎮火はされたものの、すっかり焼け野原と化したリベットの森の最奥にハンナは立っていた。一緒に来たのは、たくさんの植物魔法使いたち。

『田舎魔法って馬鹿にされますし』

 ナーヤがそう言ったとおり、植物魔法は決してチヤホヤされる上位魔法ではない。つまり、使い手の数はとても多いのだ。

 王都エルガ、そして近隣の街にも声をかけてハンナはこの場所にたくさんの植物魔法使いたちを集結させた。そして、彼らを魔獣から守るための兵士たちも。

 魔獣は賢い生きものだ。好んで人間と戦いたがっているわけではない。グレイブ山の魔獣も、このリベットの森の魔獣たちも、人間の街に向かってきたのは餌の不足という深刻な問題が発生したからだ。

(つまり、餌の問題が解決さえすれば……おとなしく森に戻ってくれるかも)

 討伐ではなく、こちらの方向で解決できないか? ハンナはそう考えたのだ。

「さぁ、みんなの力でこの焼け野原をもとの状態に戻しましょう」

 集まった植物魔法の使い手たちに、ハンナはそう声をかける。

「はい!」
「やってみましょう」

 頼もしい返事が返ってくるとともに、辺り一帯の暗闇が若草色の光に包まれる。

 植物魔法が発生している証拠だ。清らかな風が吹き、瑞々しい匂いが満ちていく。

 焼けた大地が生気を取り戻し、そこかしこに緑の芽が出る。

 ハンナも目を閉じ、想像力を膨らませる。

 この場所で美しい木々がさざめく。鳥たちがやってきて、枝葉に止まる。魔獣たちの好む、リベットの森本来の姿を――。

 そのイメージをそのまま自身の指先に流す。すると、ハンナの身体に若草色の光が集まった。
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