呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 ハンナが王宮に戻ってきたのはその日の夜だった。

 動ける者はみな、西門の防衛に駆り出されているせいか、いやに静かでひっそりとしている。

 人気のない中庭で、ハンナはハーディーラの名を呼ぶ。

(私の最後の仕事。それはエリオットさまを助けること)

 魔獣問題はどうにか解決した。あとは反乱軍の鎮圧と、その事後処理。

 どちらもエリオットなしでは難しい問題だ。反乱軍を制圧する前にエリオットにもしものことがあったら?

 フューリーの王位簒奪が成功してしまうかもしれない。

 反逆をくわだてるような人間が王位につく、それがこの国のためになるとは思えなかった。

(エリオットさまは、まだまだこのオスワルトに必要な人間だわ。失うわけにはいかない)

 まるで、ハンナに呼ばれることを察していたかのように、ハーディーラがその姿を現す。

 ハンナは彼を見つめ、自分の願いを言葉にする。

「私の心臓を差し出すので、エリオットさまを健康な身体に戻してください」

 彼はちっとも驚かなかった。エリオットの身体のこと、きっと知っているのだろう。

「お願いします、ハーディーラさま」

 心臓を差し出す。命、寿命を対価とする闇魔法は彼のもっとも得意とするところだ。
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