呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 ハンナはにっこりとほほ笑んでみせた。

「私の遺言だと伝えてください。オスワルトを守る立派な王として、生をまっとうすること。そして、どうか幸せに、笑顔で過ごしてほしいと」

 自分の遺言なら、彼は必ず守ってくれるはずだ。

 ハンナの揺らがない決意を聞き、ハーディーラも真剣な表情を見せた。

「しつこいようだが、魔法は一度かけてしまったら取り消せないぞ」
「後悔などいたしません。私の命と引き換えに、エリオットさまを救ってください」

 それ以上の反論がないのは、承諾の意と解釈してもよいだろうか。

 先手を打って、ハンナは「ありがとうございます」と告げてしまう。

 ハーディーラが瞳を閉じる。

 彼に呼ばれてやってきた風が、虹色の花をサワサワと揺らす。

 下から押しあげられるような圧でハンナの身体は宙に浮いた。

 そのまま、自分の意思ではないのにふわんと仰向けになる。

 手足の力が抜け、ハーディーラみたいに、ハンナの身体も闇と同化していくような心地がした。

 彼がなにか呪文めいた言葉をつぶやく。

 はっきりと聞こえるわけではないが、エリオットを救う魔法だと思うと、とても耳に心地よい。

(すごく、幸せな死ですね)

 自分の命が、愛する人を生かすために使われるのだから。

(無になるわけではない。私の魂はエリオットさまのなかで生きることができる。これからもずっと一緒……)
< 174 / 187 >

この作品をシェア

pagetop