呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 静かで、温かい場所にハンナの意識はあった。

 もう魂だけの存在になっているのかもしれないが、四肢の感覚はまだあった。全身がふかふかの羽毛に包まれているように心地よい。

(私、天国にいるの? こんなに優しい場所が地獄とも思えないし)

 瞳を閉じたまま、ハンナは思考を巡らせていた。

 優しい香りもする。ナーヤがいつも眠る前にいれてくれるハーブティーによく似た……いや、似ているどころかそっくり同じに感じる。

(天使もハーブティーを好むのかしら?)

 ふいに、グンと強く意識を引っ張られたような気がした。反射的にハンナはハッと、目を見開く。

(え? 目って、死後も開くものなの?)

 視界のなかに、いくつもの顔が見える。

 福々しい頬はナーヤのもの。彼女は摩訶不思議なものを見たような表情でハンナを見つめている。その隣はハーディーラだ。いたずらが成功した子どものように、金の瞳が輝いていた。

 さらに隣は、見知らぬ少女。十歳くらいだろうか。ハチミツ色の髪と珊瑚のような瞳。砂糖細工でできたような美少女だ。

(だ、誰?)

 そして、彼らを押しのけて視界の真ん中に君臨するのは……エリオットだった。

「ナ、ハンナッ」

 のしかかってきた彼に、背骨がきしむほどの強さで抱き締められた。

(デ、デジャヴだわ)

 十五年の眠りから覚めたときと、まったく同じだった。

「あ、あの……」

 意外にも簡単に声を出すことができた。かすかな違和感はあるもの、とりあえずボロボロと涙をこぼす彼と意思疎通をはかることはできそうだ。

「エリオットさま。申し訳ないのですが、少しばかり重いです」
< 176 / 187 >

この作品をシェア

pagetop