呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 対するエリオットはなにも持ってはいない。とくに……王族でありながら、魔力が発現する気配すらない点は悪しざまに言われていた。『王家の恥』などという、聞くにたえない陰口をハンナですら耳にしたことがある。

 エリオットはただ、捨て置かれていた。誰も彼をかえりみず、王子など名ばかり。
 
 つまり、彼の教育係はちっとも利にならない。手をあげる上級貴族がいないのだろう。

 結果、本来ならば候補対象外の、子爵令嬢ハンナにまで話が回ってきた。

 その推理は正解だったようで、母は苦笑交じりにぼやいた。

「子爵家って、いつもこうなのよ。貴族社会で便利に利用されてばかり」

 上と下との板挟み。中級貴族ならではの悩みだろう。

「断れないとうわけではないけど……どう思う? ハンナ」

 母に問われ、ハンナはエリオットのことを考える。

(兄王子たちの教育係には、大勢の令嬢が殺到したと聞きますのに)

 恐れ多いことではあるが、結婚相手探しに難儀しているハンナには少し彼の気持ちがわかる気がした。誰からも求められないのは、やはり悲しい。

 ハンナは母に向かってほほ笑んだ。

「ありがたいお話です。喜んでお引き受けしますと、エリオット殿下にお伝えくださいませ」 
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