呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 かくして、ハンナは第四王子エリオットの教育係に就任した。

「はじめまして、エリオット殿下。ハンナ・サラヴァンと申します」

 最上級の礼で、ハンナはあいさつをした。

 だが、彼は興味なさそうにこちらを一瞥しただけですぐに視線をそらしてしまう。

(十五歳。より、もう少し幼く見えるような……。小さく、痩せていらっしゃるからかしら)

 頼りなさげな、ひょろっと細い身体。珍しい、綺麗な銀髪なのにボサボサで、肩には白いフケが落ちている。

 着ている黒いシャツと灰色のパンツも、あきらかに丈が足りていない。

(なによりも、この離宮……)

 エリオットが王都の外れにある離宮で暮らしてるのは知っていたが、こうもひどい場所とは思いもよらなかった。

 赤茶色の外壁の古ぼけた離宮。

 陽光も風も入らず、空気は重くよどんでいる。この部屋へとつながる廊下など、あちこちにカビが生え、蜘蛛が巣を作っていた。

(これでは、離宮というより牢獄じゃないですか)

 ちょっと裕福な平民の家のほうが、よほど居心地がよさそうだ。

 小さな背中がぽつりと言葉を紡ぐ。

「帰っていい」
「え?」

「教育は受けたことにしておくから、帰って構わない」
「そういうわけにはいきません!」

 ハンナが反論すると、エリオットはようやく正面から顔を見せてくれた。

 艶のない肌は青白く、病人のよう。けれど、その瞳の輝きに……ハンナは目を奪われた。

(なんて、美しいサファイアの瞳)

 彼はハンナを見て、ぶっきらぼうに吐き捨てる。

「ここにいると具合いが悪くなると、みんなが言う。だから、帰れ」
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