呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 そのひと言に、胸が詰まった。

 エリオットは優しい少年なのだろう。美しい心を持った、この国の王子。

 いつか、すべての国民を統べる王になるかもしれない彼が、こんな境遇にいるなんて――。

 いくらなんでもおかしいだろうと、ハンナは世の理不尽を呪いたい気持ちになった。

「私は帰りません。早速、お勉強をはじめさせていただきます」

 しばし考えてから、ハンナはポンと手を打った。

「外に出ましょう、エリオット殿下! 日の光と風を浴びるんです」

 社交術でもっとも大切なもの、それは〝会話〟にほかならないだろう。

 青空のもとで散歩をし、お喋りを楽しむ。最初の授業にふさわしい内容だ。

 ハンナは自信満々で提案したのだが、彼は渋い顔だ。

「嫌だよ。日の光を浴びると、目まいがして頭が痛くなる」
「それは、日の光を浴びていないから起きる現象です! さぁさぁ、行きましょう」

 ハンナは半ば無理やりエリオットを外に連れ出したが、彼は自分で宣言していたとおりまぶしい光を浴びた途端、まるで吸血鬼のようにへなへなとへたり込んでしまった。

「無理、日光は無理だ……」

(社交どうこうの前に、まずは生活習慣の改善が必要ですね)
 
 とういわけで、ハンナの教育は彼にまともな生活環境を与えることからスタートした。
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