呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
「本当ですか? では、またスコーンを焼いてきますね。今度はバターのクリームを添えましょうか」

 ウキウキと答えるハンナに、彼はこくりとうなずく。

「これだけじゃない。ハンナの持ってくるものは、これまで食べたことがないくらいおいしい。こんなにうまいものを作れるなんて、君は料理の才能があるんだな」
「……ありがとうございます」

 褒められた嬉しさの奥で、かすかに胸が痛む。

 ハンナの料理の腕は至って普通だ。たしかに貴族女性としてはできるほうだが、彼に差し入れる料理は簡単なものばかりで、謙遜ではなく誇るような品ではない。

(この普通の食事がとびきりおいしいと思ってしまうほど……これまでの彼の食事は寂しいものだったんだわ)

 問題は味そのものではないと思う。あのカビくさい部屋でひとりきりで食べていたら、どんなに素晴らしい料理だっておいしさが半減してしまうだろう。

「……俺はなにも返せなくて、申し訳ない」

 苦しそうに絞り出した声で、彼はそんなふうに言った。

「いいえ! お返しはもらっていますよ」

 ハンナが答えると、エリオットは不思議そうに小首をかしげる。

「殿下が喜んでくれること、元気になってくれることがなによりのプレゼントですから」

 その言葉に嘘はなかった。

 ハンナは花を育てたり、一枚の布からドレスを仕立てたりと、手をかけてなにかを生み出すことが好きだった。
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