呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 エリオットは原石だ。磨けば磨くほど、輝き出す。ワクワクしないはずがない。

「殿下との楽しい時間を、いただいています」

 ハンナの言葉にエリオットは目を見開く。その大きな目がゆっくりと、優しい弧を描いた。

 はにかむような笑顔はとびきり瑞々しくて、清涼な風が吹いたようだ。
 
 女性との関わり方、すなわち恋愛について教えるのもハンナの大事な役目だ。

(といっても、私も人に教えられるほどの経験も実績もないのですが……)

 上級貴族の華やかな令嬢たちは結婚前にいくつかの恋をたしなんだりするそうだが……容姿も性格も地味は自分には縁のない話だ。

 なので、恋心を学ぶ参考書として、名作と謳われる恋愛小説を持参してきた。読み終えたあとで、彼と感想を語り合う。

「主人公の愛は深いんだな。自分より、相手の幸せを願った」
「えぇ。きっと、それこそが愛の本質ですよね」

 王道の物語だ。主人公の町娘はとある貴族の青年と恋に落ちる。ところが、魔女が魔法で主人公に変身して青年を誘惑する。彼はまんまと騙され、魔女と結ばれてしまう。主人公は裏切った青年を殺すこともできたがその選択はせずに、自らの命を絶つ。ラストは、愛した女の死を知った青年が絶望し、あの世での再会を願って海に身を投げるシーンで締めくくられる。

「けど……」

 言いながらエリオットは口をへの字にした。
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