呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
「殿下はいつかこの国の王になるかもしれないお方です。この先、妻になりたいという女性が殺到するはず。だからこそ、私はこうしてあなたに教育を授けているんですよ」

 エリオットは幽霊でも見たかのような顔で、じっとハンナを凝視する。それから、「ははっ」と噴き出した。

「魔法も使えない無能な俺を『王になるかもしれない』なんて言うのは、あとにも先にも君だけだろうな」
「魔力の有無は王位継承に必須の要件ではなかったはず。歴史上のどんな出来事にも〝初めて〟は必ず存在しますよ」

 魔力を持たない最初の王、それがエリオットになる可能性だって否定はできない。

「ハンナは変わり者だな。貴族令嬢なのに自分で料理をしたり、掃除をしたり。そもそも俺なんかの教育係を引き受ける時点でだいぶ変だ」
「私はすべてにおいて、平凡な女です。『変わり者』なんておっしゃるのは、きっとあとにも先にも殿下だけです」

 視線がぶつかり、ふたりはクスクスと笑い合う。
 
 エリオットと過ごす時は日だまりのように温かく、優しかった。

 とある日。

 ハンナはエリオットと一緒に離宮の書庫の整理をしていた。これまで、彼はあまり読書を好まなかったようなのだが、ハンナと感想を語り合ったりするなかで書を読むことの奥深さと楽しさに目覚めたようだ。
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