呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 ハンナではない。自分にそんな能力などないことは知っている。

 ハンナの視線が花瓶の横に立っているエリオットをとらえた。

「エリオット殿下……」

 彼の肩に小さなコウモリが乗っている。闇をつかさどると言われている生きものだ。

 ヒュゥゥと、どこからともなく冷たい風が流れ込んでくる。
 
 エリオットの肩の上のコウモリはシュルシュルと煙状になったかと思うと、今度は人間の男性の形をとった。

 黒い長髪、褐色の肌、金色に輝く瞳、口元には人間とは違う牙のようなもの。背には大きなコウモリの翼が生えている。

「ハンナ! 大丈夫か?」

 エリオットの顔は心配で青ざめている。

「は、はい。私は大丈夫です。殿下、そこにいるお方は?」

 ハンナは目の前の光景を信じられないような思いで見つめていた。

 自分の想像が正しければ、そこにいる黒ずくめの男性は六大精霊のひとり、ハーディーラのはず……。

(魔法書で見たとおりの、姿形だわ)

「あぁ、これはクロといって」
「ク、クロ?」

 エリオットは偉大なる六大精霊のひとりを、犬猫につけるような名で呼ぶ。

(これはいったい、どういうことなのでしょうか?)

 この世界には魔力を持ち、魔法を使える人間が多数存在する。

 魔法は戦闘でも経済活動でも有利に働くので、強い魔力の持ち主ほど大きな権力を手にできる。オスワルト王国も例外ではなく、王侯貴族は優秀な魔法使いである場合がほとんどだ。
< 35 / 187 >

この作品をシェア

pagetop