呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 それにハンナは確信していた。エリオットはきっと他者を守るためなら魔力を発揮できるのだ。

 だから、自分が死ぬことはない。多少の怪我はするかもしれないが、その程度ならまったく構わない。
 
「ハンナ!」

 鋭く、強い口調で呼ばれハンナは小さく肩を跳ねさせた。サファイアの瞳のなかに怒りの炎が揺らめいている。

(あ、だいぶ怒っていらっしゃる)

 どこか飄々としたところのあるエリオットの、こんな顔は初めて見た。

「エリオット殿下?」

 彼は逃がさないとでも言うように、まっすぐにハンナを見つめた。

「逆だ。六大精霊もこの王国も、君の安全と比べたら石ころ以下のちっぽけなものだ」
「石ころで悪かったな」

 ハーディーラが口を挟む。

「石ころじゃない。石ころ以下だ。ここ、すごく重要だから」

 エリオットも応酬する。それから、彼はハンナの両手をギュッと強く握った。

「覚えておいて、ハンナ。俺の一番大切なものは、君が楽しそうに笑っていることだ。怪我をしたり、病気になったりしたらそれが叶わなくなるだろう。だから、ハンナは自分を一番大切にしないとダメなんだ」

 ハンナの胸がキュンと、小さく鳴る。五歳も年下の少年に、不覚にもときめいてしまった。

(私ったら、王子殿下を相手にドキドキするなんて……恐れ多いにもほどがあるわ)
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