呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 色々なことが、あまりにも急展開に押し寄せるのでハンナの頭は爆発寸前だった。

 なにせ、自身の感覚は眠りにつく十五年前のままなのだ。

 ナパエイラでの生活にやっと慣れたところ。浮気夫と、我が物顔で屋敷に入り浸る愛人の存在に嫌気が差していた日々は、ハンナにとってはつい最近の記憶。

 そこからいきなり、二度と帰れないと思っていた故国の王妃になるなど……想定外すぎる。

 もっとも現実的な話をすれば、ハンナに選択権はない。

 貴族の娘の結婚は本人ではなく家が決めること。両親が『はい』と答えているのであれば、ハンナはそれに従うのみだ。

 なによりも、今のエリオットは大陸でも一、二を争う大国オスワルトの国王。彼に叶わぬ望みなどないだろう。ハンナのイエスを待つという言葉は、彼の優しさにほかならない。

 だが、今は彼の優しさに甘えたい。とてもじゃないが、すぐにイエスとは答えられなかった。

「申し訳ございません。目覚めたばかりで、まだ頭が混乱しておりまして」

 こう言えば、彼は同情してくれる。少しずるかったかもしれないが、ハンナの思惑どおりエリオットは優しい声を出す。

「そうだな……すまない。君が目覚めてくれたことが嬉しくて、なにもかも急ぎすぎた」

 頬にあったエリオットの手が動き、ハンナの頭をそっと撫でた。

(頼りがいのありそうな、大きな手だわ)
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