呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 困惑と、ほんの少しのときめきがハンナの心をかき乱す。

(この方が私の夫に……?)

 輝くばかりの美貌を誇る一国の君主。

 かつても片鱗を見せていた知性と才能は見事に花開いたようだし、一途でまっすぐな気性は今も変わっていないように思える。

 ジョアンに比べたら、いや、比べるのが申し訳ないほどに、エリオットはよき夫となるだろう。

 ジョアンとの結婚生活では得られなかった、愛と安らぎに満ちた日々。

(もう一度、望んでもいいのかしら? いえ、でも!)

 エリオットが今も不遇王子のままだったら、ハンナはすぐにでもイエスと答えたかもしれない。豪華とはいえなくとも、静かな離宮で肩を寄せ合って慎ましく暮らす。彼と一緒ならきっと楽しい毎日になったはず。

 けれど現在の彼は国王で、彼との結婚は大国の王妃になることを意味するのだ。子爵令嬢であるハンナが受けてきた教育ではとても足りない。重責を担う覚悟は、そう簡単にはできなかった。

 翌日。身体はすっかり調子を取り戻しているものの……とくにするべきことも、できることもないハンナは手持無沙汰だった。

 ぼんやりと窓の外に景色を眺めていると、エリオットが顔を出してくれた。

「ハンナ。もし体調に問題がないなら、少し外に出てみないか?」
「外ですか?」
「あぁ。久しぶりの故国だろう。案内するよ」
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