呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 王子殿下が子爵家の結婚ごときに口を出すのは珍しいが、フューリーはたいそうな人格者として知られている。困っている父を放っておけなかったのか、あるいは……ハンナにはわからない深い事情があるのかもしれない。

 ハンナの嫁ぎ先は、ナパエイラ国でもとくに裕福だというシュミット伯爵家。

「ハンナは語学力が高いので、ナパエイラの言葉にもすぐになじめるだろう。両国の架け橋になってくれることを期待すると、フューリー殿下がおっしゃってね」

 新興とはいえナパエイラは勢いのある国、しかも相手は格上の伯爵位。おまけに大金持ちで、年齢もハンナとはバランスのいい二十九歳とのことだった。

「なるほど。こちらからすれば、破格に条件のいい縁談なのですね」

 言葉も文化もまったく異なる遠い国、嫁いでしまったら二度と祖国の地を踏むことはない……という点をハンナがのみ込みさえすれば済む話。

 ふいに脳裏に浮かんだ、とある人物の面影をハンナは必死に振り払う。

 そもそも、王子殿下からのすすめを子爵家ごときが断れるはずもないのだ。

(すべてが完璧な結婚なんてありえないこと。みんな、多かれ少なかれ、なにかをのみ込むのでしょう)


 ハンナは子どもの頃から大人びていて聡い娘だった。故国を離れる寂しさなど、みじんも見せずににっこりとほほ笑んだ。

「素晴らしいお話ですわ。ありがたく、ナパエイラ国に嫁がせていただきます」

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