呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 それはとても魅力的な提案だった。嫁ぎ先のナパエイラも決して悪いところではなかったけれど、離れてみると自分がどれだけ故国を愛していたか実感する思いだったから。

「ありがとうございます。では、ぜひ」
「うん」

 エリオットはホッとしたように頬を緩め、それから「クロ」と懐かしい名前を呼んだ。

 以前は呼んでも来ない、呼んでいないときにかぎって来る、というのが常だったハーディーラが一瞬でふわりとエリオットの前におり立った。

「久しぶりだな、女」

 コウモリの翼、黒い髪、不遜に輝く金色の瞳。

 彼は、彼だけは、あの頃と変わっていなかった。

 精霊は年を取らないし、どんな姿をとるかも自由自在なので当たり前といえば当たり前なのだが。それでも、なんだか自分だけ取り残された気分になっていたハンナにはホッとできる事実だった。

「ハーディーラさま。お久しぶりですね。お変わりなさそうでなによりです」

 ハンナは再会のあいさつのつもりで彼の手を握ろうとしたが、エリオットがスッと間に入ってきてそれを邪魔した。ハーディーラは怪訝な顔でエリオットを見つめる。

「あいかわらず、お前の趣味はさっぱりわからん。久しぶりに見ても、やはりこの女はちんちくりんだぞ。嫉妬なぞ無意味だ」
「ハンナの手がクロに触れるのは嫌だ。私にとっては、自然で当然の感情だからな」
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