呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 次の瞬間、ハンナはもう王都エルガの城下町にいた。エルガは政治だけでなく商業の中心地でもある。人も物もあふれんばかりに賑やかだ。

「あら、ハーディーラさまは?」

 一緒に来るものと思っていたが、彼の姿は見当たらない。エリオットは苦笑して答える。

「気が向けばまた姿を見せると思う。今は呼べばすぐに来てくれるし、初歩的な魔法ならクロがそばにいなくても使えるようになったから心配はいらないよ」

 昔はまったく魔法が使えず、落ちこぼれ扱いされていたことなど嘘のようだ。

「ところで、エルガの街はどうだ?」
「はい。とても懐かしいです」

 ハンナは目を細める。

 この国を離れてから十七年も経っているので、見覚えのある光景とは言いがたい。

 けれど、この活気に満ちた空気は当時のままだ。

 食堂やカフェ、ドレスを仕立てるテーラーに魔道具店。異国人らしき旅人が、通りに絨毯を敷いてそこで商売を始めている。

「まぁ、なにを売っているのかしら?」
「見てみようか」
「はい」

 ふたりは露店の前にかがみ込んで、あれこれと並ぶ商品を眺める。そのうちのひとつに目を留めて、ハンナは「あっ」と声をあげる。

「これ、ナパエイラの特産品ですよね」

 向こうで暮らした二年間で、何度も目にした品だ。

 白い布に赤い糸だけで様々な図案を刺繍していく。それをスカーフにしたり、布巾にしたりするのだ。
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