呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
「私的な、ですか?」

 エリオットはナパエイラの刺繍がほどこされたスカーフを手に取り、じっと見つめた。

「オスワルトがもっと開放的な国家になり、ナパエイラとも友好的な関係を築けたら……君がいつでも里帰りをできるんじゃないかと思ったんだ」
「私?」
「そう。当時の私はまだ〝不遇王子〟だったが、ハンナにもう一度会いたい。その気持ちだけで、国王になって外交を変えようと思ったんだ」

(私のために国王に?)

 エリオットの思いが、想像以上に重く、深いことを知りハンナは戸惑うばかりだ。

「まぁ今だって、似合いもしない国王なんかやっているのは君の存在があるからだ」

 エリオットは熱く、甘く、ハンナを見つめる。

「いつか王になる、とハンナだけは信じてくれたから。だから、王でいられる。私が国と国民のために働くのは、君に失望されたくないからだ。私利私欲だけで動いていて、ちっとも立派じゃない」

 ハンナはエルガの街を見渡し、それからきっぱりと首を横に振った。

「いいえ。エリオットさまは立派な国王ですよ」

 国民には君主の心のうちは見えない。見えるものは、自分たちの生活だけだ。どれだけ素晴らしい志があろうとも、国民の生活に反映されなければ意味がない。

 王都エルガはすごく変わったように見える、それもとてもいい方向に。

 かつてこの街は、光と闇が共存する場所だった。華やかさの足元には濃い影が落ちていた。
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