呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 たとえば、あの辺りは貧しい者たちが固まって暮らす無法地帯で、うなだれる大人と泣きわめく子どもの姿がいつも痛ましかった。けれど、現在は綺麗な建物が立っていて、なかから元気な子どもたちが飛び出してくる。

「エリオットさま、あの建物は……」
「孤児院だ。親のいない子を預かって、教育を受けさせている。優秀な子は試験を受けて役人になることもできるよ」

 ハンナの頬が無意識に緩む。

「オスワルトは、以前よりずっと光に満ちた国になったんですね。エリオットさまのおかげで!」

 エリオットは照れたように頬を染め、続けた。

「ハンナが私にしてくれたことを、今度は私がなんらかの形で返していきたいと考えたんだ。ハンナが喜んでくれるのなら本望だ」

 エリオットの心にはいつもハンナがいる。教育係として、ほんのいっときを一緒に過ごしただけなのに、彼は自分の存在をずっと忘れないでいてくれたようだ。

 くすぐったくて、嬉しくて……どんな顔をしていいのかわからない。

「このスカーフを包んでくれ」

 エリオットは露店の主人に告げる。美しい紙に包まれたそれを、店主から受け取った彼がそのままハンナに手渡した。

「再会の記念に。赤はハンナによく似合うと思うから」

 優しく向けられたサファイアの瞳に、ドクンと大きく心臓が跳ねた。ドクドクドクとありえないほどの速度で鼓動が打ちつける。
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