呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 ところが、この結婚はハンナにとって非常にむなしいものだった。

 夫であるジョアン・シュミット伯爵にはリリアナという名の愛人がいて、二年も夫婦だったのに彼はハンナに指一本触れようとしなかった。つまり、貴族女性としては最大の不名誉である『白い結婚』を強いられたのだ。

 そうして最後は、愛人に呪い殺される。

(あぁ、来世こそは人並みの、幸せな結婚がしたいわ)

 死の呪詛を聞きながら、ハンナはたしかにそう願った。

 だが、永遠の眠りが思っていたよりずっと短いのは……想定外だった。

 オスワルト王国の豪華絢爛な王宮、その最奥に位置するのは時の国王陛下の寝所である。

 ワインを楽しみすぎた翌朝のように重いまぶたを、ハンナはゆっくりと開ける。目覚めの気分は決して悪くない。むしろ爽快でもある。が、視界に映るすべてに、小さな違和感がまとわりつく。

(日差しがまぶしい。それに、ナパエイラに来てからはもっと厚手の布団で眠っていたはずなのに)

 ハンナは上半身を起こし、自分の居場所を確認する。ふかふかのベッドの上、軽やかな羽毛の布団がおなかの辺りにかけられている。

 窓から燦々と差し込む陽光は、ナパエイラには縁遠いもの。そもそも、窓の形も嫁いでからの二年間で見慣れたものとは全然違う。

 ナパエイラの窓は、暴力的に押し寄せてくる寒気を少しでも遮断するためにかなり厚みのある造りをしているのだ。
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