呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 ハンナは歯がゆく感じているが、肝心のエリオットが現状に満足している様子なのでどうにもならない。

「いいんだよ。自由にしているほうがクロらしいし」

 憎まれ口を叩き合ってはいるが、ハーディーラとエリオットの間にはたしかな絆があって……ハンナに口を出す権利などないだろう。

 エリオットは小首をかしげて、下からハンナの顔をのぞく。

「それに、俺はハンナとふたりきりの時間がなにより大事だから。クロが帰ってこないのは、いいことだ」
「そんな、歯の浮く口説き文句を教えた覚えはありませんよ」

 ハンナはお姉さんぶって、眉をつりあげる。それを見た彼はクスリと楽しそうに笑った。

「女性には素直な気持ちを伝えることが一番大切だと、君はそう言っただろう」
「ま、まぁ、それはそのとおりですが」

 最近の彼はずいぶんと大人びてきて、ハンナはタジタジだ。

 ハンナの本分である恋愛指南も、段々と核心に近づいてきていた。

 王宮に代々伝わる指南書を読み進めながら、ハンナは彼に説いて聞かせる。

「女性は心も身体も繊細です。乱暴に傷つけてはいけません。慎重すぎるほどでちょうどよいと、この指南書にも書いてあります」
「うん。ハンナを見ていれば、それはわかる。首も肩も細くて華奢で、大切に触れないと折れてしまいそうだ」
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