呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 その夜のこと、父、サラヴァン子爵がウキウキした様子でハンナを呼んだ。

「いかがなさいましたか、お父さま。すごく嬉しそうですね」
「あぁ。ハンナに素晴らしい知らせがあるんだ。きっとお前も喜ぶはずだ」
「まぁ、なにかしら」

 エリオットに出会う前は、なかなか決まらない自身の結婚にヤキモキしたり、夫のなる人について想像していたりしたのに……。

 最近のハンナは結婚のけの字も思い出さなくなっていた。

 だから、父から伝えられた言葉に大きな衝撃を受けた。

 「け、結婚ですか……」

 オスワルト王国、サラヴァン子爵家の娘、ハンナ・サラヴァンはナパエイラ国のシュミット伯爵家に嫁入りすることが決まった。

 結婚を承諾してから数日。

(ありがたいお話ですわ。心から喜ぶべきこと……)

 まるで自分に言い聞かせるように、ハンナは何度も同じ言葉を心でつぶやいていた。

 視線は丸い窓の向こう、遠くを見つめている。

 エリオットの住まうこの離宮の庭は、荒れ放題……ではなく自然豊かだ。

 白、赤、黄、菫色。目にも鮮やかな花々が生き生きと乱れ咲いている。

(ナパエイラは一年のほとんどが雪と氷に閉ざされる国だと聞きます。オスワルトの花々を愛でられなくなってしまうのは……寂しいですね)

 出立はひと月後を予定している。この庭の景色を楽しむ機会が、あと何度残されているだろうか。

「ハンナ、大丈夫?」
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