呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 ふと気がつくと、心配そうにこちらを見つめるエリオットの瞳が迫っていた。

「体調でも悪いのか? ずっと、ぼんやりしているけれど」
「あっ、失礼いたしました」

 ハンナは慌てて手元の書物に視線を戻す。長椅子にふたり、横並びで座って恋愛指南書を読んでいる途中だったのだ。

「えっと、どこまで読んだのでしたっけ?」

 彼と過ごす時間も、もうすぐ終わりを迎える。胸につのる虚しさに強引に蓋をして、ハンナは明るい声を出した。

「あ、ここは大事なところですよ。口づけ、そして肌を重ねる行為。これはすべて、たったひとりの愛する人と行うべし。そう書かれています」

 エリオットは皮肉げな笑みを浮かべる。

「その教えを守っていない人々は王宮にもたくさんいるよね。俺の父親……とか」

 彼は国王と愛人の間に生まれた王子だ。それが不遇な立場に追い込まれている要因のひとつでもある。

 彼の抱える痛みが伝わってきて、ハンナの胸も重くなった。

「そう、ですね。人は弱い生きものですから。愛を貫くには、強さが必要なのでしょうね」

 机の上に置かれた彼の手にハンナは目を留める。

「エリオット殿下、お手を……よろしいでしょうか?」

 長い指先が美しい、彼の手の甲にそっと自分の手を重ねる。ハンナから彼に触れるのは、これが初めてだった。

(そして、最後になるでしょう)
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