呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 パッと弾かれたように彼が顔をあげる。
 
 驚きと照れで、エリオットの頬はかすかに赤く染まっていた。ハンナはじっと彼を見つめる。

「殿下は強く、優しい人です。なので必ず、愛を貫くことができるはず」

 エリオットの妻になる女性は幸運だ。彼はきっと、たったひとりのその相手を幸せにするだろう。

「私はそう信じております」

 ナパエイラへと旅立ったら、もう二度とエリオットと会うことは叶わなくなるだろう。

 ハンナにできるのは、願うだけ。

(遠い異国から、あなたの幸せを祈ります)

 エリオットは表情を曇らせ、ハンナの手をギュッと強く握り返した。

「ねぇ、ハンナ。どうしてそんなに悲しそうな顔をするの? 君の声が震えている理由は?」

ハンナはふふっと切なくほほ笑んだ。

「本日は、殿下にお伝えしなくてはならないことがあります」

 教育係の任務はそろそろ終わりであること、そして自分は遠い異国へ嫁ぐこと。

 ハンナは事実だけを淡々と告げた。

 その裏にある、エリオットとの別れを寂しく思う心。それをどうにか隠しとおすために必死だった。

 話を聞き終えた彼は、この世の終わりみたいな顔でうなだれる。

「嫌だ。嫌だよ。ハンナがそんなに遠くに行ってしまうなんて……もう会えないかもしれないなんて絶対に嫌だ」

 エリオットは素直で、むきだしの感情をハンナにぶつけてきた。
< 67 / 136 >

この作品をシェア

pagetop