呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
「たしかにナパエイラは遠いですが、たとえオスワルト国内に嫁いでも、そうそう里帰りはできぬものですから」

 オスワルト王国の領土は広い。ここ、王都エルガは西に位置しているから東側の領地にでも嫁げば、もう異国も同然だ。

「そもそも、子爵家の私とエリオット殿下では身分が違いすぎます。こんなふうに気安くお喋りをさせてもらっている、今のほうが変なのですよ」

 ハーディーラはあいかわらずだが、ハンナは勝手に確信していた。

 エリオットは近い将来、きっと彼を手懐けるだろう。六大精霊使いの王子として、華々しい地位を手にするに違いない。

「ハンナに会えなくなるなら、王子の肩書なんかいらない。そうだ、俺をハンナの召使いにしてよ。俺も一緒にナパエイラに行くから。異国では困ることもあるだろう? 俺、ちゃんとハンナの役に立つと約束する」

 まっすぐすぎる彼の思いが、ハンナを苦しめる。

「殿下! 冗談でも、そのような言葉を口にしてはいけません」

 ハンナの叱責を聞き終えるより前に、彼はハンナの身体を強く、深く、抱き締めた。

 彼の重みでハンナは長椅子に押し倒される。

 エリオットの肉体は想像していたよりずっと重く、熱く、男性だった。

 彼の吐息が首筋にかかって、ハンナはピクリと肩を跳ねさせる。

 万が一にも、この状況を誰かに見られたらまずい。すぐに彼を押しのけなくてはならないのに、どうしてか手に力が入らなかった。
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