呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 エリオットの身体が小刻みに震えているのが伝わってきて、なんだか胸が押しつぶされそうだ。

 エリオットが頭をあげる。鼻先が触れ合うほどの近い距離で、視線がぶつかった。

「ハンナが幸せになるのなら、邪魔しちゃいけないとわかってる。けど……どうしても、ハンナは俺が幸せにしたかったんだ」

 エリオットはくしゃりと顔をゆがめ、泣き笑いみたいな表情になった。ハンナは答えることができず、ただただ黙って彼を見返す。

「ハンナ。キスがしたい」

 言って、エリオットは美しい顔をゆっくりと落としてきた。

 寂しげで、か弱い、少年だと思っていた。けれど今、目の前にいる彼はどうだろう。

 顔つきはぐっと精悍になり、その瞳には強い光を宿している。

「キスはたったひとりの愛する人と。君はそう、教えてくれたよね。なら――」

 エリオットの形のよい唇がハンナへの思いを紡ぐ。

「君がいい。君じゃなきゃ嫌なんだ」

 直球でぶつけられる熱意に、あらがうことは難しくて……。

(彼はもう、子どもではないのかもしれない)

 ふたつの唇がゆっくりと近づく。

(だけど! まだ、大人でもない)

「おやめください、エリオット殿下」

 毅然とした声で言って、ハンナは彼の唇をその手のひらで受け止めた。

 ショックにゆがむエリオットの顔を見るのはつらい。けれど目を背けてはいけないと、自分を奮い立たせて彼を見つめた。
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