呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 見慣れぬひし形の窓の外では、赤や黄色の花々が咲き誇り、草木はすくすくと生育していた。

(ナパエイラの景色ではない? あの赤い花は……懐かしいオスワルトの……)

 そこでようやく、ハンナは違和感どころの話ではなく、すべてがおかしいと気がつく。

(そうよ。わたしが目覚めること自体が変だわ。だって、呪い殺されたはずなのに!)

 思考は重要な局面に差しかかっているというのに、そこでプツンと遮断された。

 誰かに、ものすごい力で抱き締められたからだ。

「……え?」
「ハンナッ」

 ありったけの愛を込めたような激しさで自分を抱くのは、いったい誰なのだろう。夫であるジョアンは、天地がひっくり返ってもこのようなことはしないはず。

「あ、あの……」

 ハンナの視界の真ん中に、キラキラと輝く極上のサファイアが飛び込んでくる。

 月の光を閉じ込めたような銀髪が、形のいい額をさらりと流れている。高い鼻筋に優美な口元。神々しいほどの美貌を持つ男性だ。
 この美しい瞳には見覚えがある気がする。しかし……。

「ハンナ。私がわかるか? エリオットだ」

 エリオット、その名も懐かしい響きだ。けれど、目の前の美丈夫はハンナの知る〝エリオット〟ではない。

(殿下と同じ名前、同じ色の瞳を持つこの方は……)

「あの、あなたはいったい誰なのでしょう?」
「忘れてしまったなんてひどいな。君の教え子のエリオットだよ」
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