呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 エリオットはそれ以上、強引に迫ってこようとはしなかった。

『無理強いはしたくないからね』

 いつかの彼の声が蘇る。

 その信念をしっかりと貫ける強さを持つ男性は、きっとそう多くないはずだ。

(やはり、エリオット殿下は素晴らしい男性です。だからこそ)

 ハンナは彼を支えるようにして、一緒に上半身を起こす。

「聞いてください、殿下」

 ハンナのその言葉に、彼は珍しく反抗するように唇を引き結んだ。彼の全身が「なにも聞きたくない」と訴えている。

 けれど、ハンナの瞳が悲しげに揺れるのを見るとすぐに「わかったよ」と答えてくれる。

 ハンナは少し口元を緩めて、彼に語りかけた。

「殿下のお気持ち、心から嬉しく思っています」

 たいへんに恐れ多いことだが……今のエリオットはハンナに恋をしているのだろう。

 その気持ちを疑うつもりはないし、ハンナの人生でこれ以上はないと思えるほどに輝く、とびきりの贈りものだ。

(だって私は……不遇な立場にありながら、誰よりも優しく、気高い、この方が大好きですから)

 偉そうに、恋愛指南などとご高説を垂れていたけれどハンナだって恋など知らない。

 彼に対するこの気持ちに、どう名前をつけていいのかなんてわからなかった。

 でも……エリオットと過ごす時間は幸福で、すぐにやってくる別れを思うとこの身を引き裂かれるような心地がした。
< 70 / 187 >

この作品をシェア

pagetop