呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 本当は、エリオットがどんどん魅力的に成長していくさまを見続けていたかった。

 いつの日か絶対に実現するであろう、彼の戴冠式を盛大に祝いたかった。

 王妃に……なんて馬鹿な高望みはしないけれど、ひとりの国民として彼のかっこいい雄姿にときめいたり、はしゃいだりしたかった。

「ハンナ」

 サファイアの瞳がハンナを射貫く。強く、きっぱりと彼は告げる。

「俺はたったひとりの女性に、もう出会っている。俺はいつか君と一緒に読んだ小説の、まぬけな王子とは違う。自分が誰を愛しているかは、ちゃんと知ってる」
「……殿下」

 エリオットはもう泣きそうな顔はしていなかった。

 この一瞬で、急に大人になってしまったみたいだ。凛々しい青年が切実に愛を乞う。

「君が望むなら、俺は王になる。この狭い離宮を出て、外の世界とたくさんの人間を知ることにしよう」
「えぇ。ぜひ、そうしてくださいませ」

 ハンナは彼のように強くはなれなかった。こらえきれず、ひと筋の涙が頬を伝う。

「約束して、ハンナ。それでもなお、俺が君を愛していたら……そのときは俺のキスを受け入れてほしい」

 なんと、美しい約束だろうか。

 もし自分たちがお伽話の登場人物だったのなら、きっと大人になったエリオットが遠い異国までハンナを迎えに来てくれる。

 そして、ふたりは甘い甘いキスをするのだ。
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