呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 自身の名に反応したのだろうか、どこからともなく強い風が吹く。風の抜けたあとにハーディーラが立っていた。

「まぁ、ハーディーラさま。ちょうどよかった。お別れを言いたいと思っていたのです」

 会うのはしばらくぶりだが、彼は事情を知っているようだった。もしかしたら、姿を隠してずっと自分とエリオットの会話を盗み聞きしていたのかもしれない。

「ナパエイラねぇ。俺はこいつと違って、どんなに遠い異国でも一瞬で行き来ができるが……寒いところは好きじゃないしな。ここでお別れだな、女」
「はい。お元気で。できたら、もう少しエリオット殿下にお力添えくださいませ」
「約束はしない。精霊は〝そういうもの〟だからな」

 彼らしい不敵な笑みだった。

「俺は? ハンナのためになにができるだろうか?」

 キスを断る代わりに、なにかエリオットの力になることを……と考えただけだったので彼からの見返りは想定していなかった。

 でも、エリオットはなにか約束が欲しいのだろう。それが伝わってきたのでハンナは真剣に考える。

「あっ」
「なんだ?」
「ナパエイラは寒い国で、あまり花が咲かないらしいのです。オスワルトのように、向こうでも美しい花々を愛でることができたら嬉しいなぁと思うのですが」

 窓の外で咲き誇る花々を眺めながら、ハンナは望みを口にした。
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