呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 ナパエイラは厚い氷の壁に覆われる、冬の国だった。

 夏は瞬きをする間に終わってしまい、あとはひたすらに凍てつく日々が続く。

 土地は痩せていて産業構造はいびつ。そのため、ナパエイラは富を求めて他国に侵攻するしか道がなく、この国の歴史書はほぼ戦記だ。

 結果として彼らは強くなり、大陸でも一、二を争う軍事大国になっていった。

 ハンナが嫁いだこのシュミット伯爵家も、もともとは武功で名をあげたようだ。

 今は鉱山資源が豊富な領地を持っているおかげで、戦果をあげずとも十分に裕福な暮らしを維持できているが。

 シュミット伯爵家の、雪に耐えうる分厚い窓からハンナは空を見あげた。

 今日は雪こそ降っていないけれど、あいかわらず空は灰色一色で太陽の姿は見えない。

 ハンナは二十二歳になっていた。

(嫁いで、二年。オスワルトの輝く太陽をもう忘れてしまいそうですわ)

 オスワルトは温暖な春の国だった。

 優しく降り注ぐ陽光、柔らかに頬を撫でる風、色彩豊かな花々、ゆったりと流れる運河に黄金色の麦畑。

 もちろん、オスワルトだって楽園ではない。大国ならではの光と闇があり、闇の深さではナパエイラにも負けないだろう。だがそれでも、生まれ育った故国は恋しいものだ。
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