呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
(ここに居場所がないから、余計にそう思うのかしらね)

 ハンナの顔が自虐的にくしゃりとゆがむ。

「奥さま」

 そんなハンナの背に声がかかる。屋敷で働くメイドのひとりだ。

「来週に予定している晩餐会のドレスが届いております。完璧な仕上がりでしたよ」
「ありがとう、確認するわ」
「えぇ。衣装室の奥に掛けてありますので」

 懸命に学び、ナパエイラ語での日常会話は問題なくできるようになった。専門的な話題でなければ、もう十分についていける。

「それでは」

 メイドは長いスカートをひるがえして、来た道を戻っていく。

 モスグリーンのロングワンピース。清楚なハイネックで白いくるみボタンも上品だ。

 シュミット家のメイド服は、なかなかにセンスがいいとハンナはいつも思っている。

 二代前の伯爵、ハンナの夫の祖父の代からの伝統だそうだ。

(そうよね、あの人ならきっと……もっと胸や腰を強調したり、意味もなく脚を出したりするデザインにしたわよね)
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