呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 あの人、夫であるジョアン・シュミット伯爵の顔を思い浮かべてハンナは小さくため息をついた。

 夫婦の関係は残念ながら、決して良好とはいえない。なぜなら――。

 ハンナは晩餐会のドレスを確認しておこうと、衣装室の扉を開ける。と同時に、耳に甘ったるい声が届いた。

「うふふ。ジョアンさまったらぁ」

 ハンナはその視界の真ん中に、イチャイチャと互いの背を撫で合う男女の姿をとらえた。

 かつて武勇を誇ったシュミット家の、現当主とは思えぬほどにでっぷりと肥えたジョアンの丸い頬に、女が口づけている。

「あぁ、俺のかわいいリリアナ」

 ジョアンは妻が部屋に入ってきたことなど、まったく気づかぬ様子で愛人の名をうっとりとつぶやく。

「ゆうべもあんなに愛し合ったのに。まだ足りないのかしら?」
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