呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
(まぁ、ここまできたら死ぬまで純潔を貫いてみせましょうか)

 その夜。なめらかな絹の夜着に着替えを済ませ、ハンナはベッドに腰かけた。

 夫であるジョアンとはとうに寝室を別にしている。彼の寝室には今夜もリリアナが忍んできているのかもしれない。

 ハンナはスッと人さし指を動かす。すると、ベッド脇にある小さな丸テーブルの上に置いた、故国の両親から届いた手紙が浮きあがり手元にやってきた。

 ハンナの使えるささやかな魔法。

 この大陸には魔法を使える人間が多く存在する。ハンナが操れるのは、湯を沸かすとか、ペンを動かして文字を書くとか――これは、両手で作業をしながら書き物ができるので地味だけれど意外と便利だ――生活魔法と呼ばれるもの。魔法ランクとしてはもっとも下位。

 戦闘で役に立つ攻撃魔法や怪我を治す治癒魔法、そんな能力を持つ人間はどこの国でも重宝される。

 上位魔法を使える者は、王族や上級貴族に多い。いや、因果が逆だ。上位魔法のおかげで、王族や貴族として成りあがることができたのだろう。魔力は血縁に遺伝するのだ。

 ナパエイラにも魔法を使える者はいるが、オスワルトより数が少ない印象だった。

 ジョアンはまったく魔法が使えず、コンプレックスがあるらしい。ハンナの地味な生活魔法にすら劣等感を刺激されるようので、彼の前では決して使わないようにしている。
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