呪い殺された地味令嬢が最愛妃になるまで~お仕えしていた不遇王子が知らぬ間にヤンデレ皇帝となって、私を花嫁にご所望です⁉~
 ハンナは懐かしいオスワルト語で書かれた文字を目で追った。

 家族や親族の近況、サラヴァン家の小さな領地で起きたあれこれ、王都での流行、そんな内容がつづられている。

 オスワルトの優しい風が吹いたような気分になって、ハンナの顔も自然とほころぶ。

 が、次に続いた文章に、ハンナは眉根を寄せた。

【夫婦関係はうまくいっているだろうか。遠い異国でハンナが心細い思いをしていないか、とても不安だ】

(うっ、見抜かれていますね)

 心配そうな両親の顔が目に浮かぶ。

(まぁ、二年も身ごもらなければ、それは察するものもあるでしょう)

 実際、今の自分は幸せとは言いがたい。政略結婚とはいえ、夫に見向きもされない日々はむなしく、なにか重苦しいものが澱のように心に蓄積していくのだ。

 夫に対するのと同じくらい、リリアナにも腹が立つ。ふたりの関係はハンナが嫁いでくるよりも以前から始まっているから、百歩譲って愛し合うのは許そう。

 だが、我が物顔でこの屋敷を闊歩する神経は理解できない。正妻であるハンナをどこまで小馬鹿にすれば気が済むのだろうか。

 素晴らしいドレスを台無しにされた恨みだって、向こう十年は忘れられそうになかった。

(とはいえ、不幸かと問われましたら……)
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